松本 薫/著 監修/影山 猛
〜読みどころ〜
江戸中期以降多くの「たたら」を経営し、日本の鉄生産を担うとともに、日野谷の人々の生活を支えてきた黒井田家は、明治に入って大きな危機を迎えていた。洋鉄の流入によって鉄価が下がり、経営が立ちゆかなくなっていたのである。
米子生まれの娘・りんは、明治の初め、その黒井田家へ奉公に上がる。黒井田家の手代・徳蔵と夫婦になったりんの一生は、たたら製鉄の再興から終焉に至る道すじの中にあった。
鉄山経営に身を削る夫・徳蔵。その徳蔵と対立する職人たち。りんがほのかな思いを寄せていた村下職人の誠吾。近代的手法を取り入れて「たたら」の再興をはかる黒井田家当主・清衛門と弟・緑次郎。鉄山に生きる女や子供たち……。そうした人々が絡み合いながら、りんの物語は進んでいく。
やがて黒井田鉄山は最盛期を迎え、日本の近代化と発展に大きく貢献する。しかしそれはまた、りんに大きな悲しみをもたらすことにもなるのである……。
明治という時代は、国家も人々も激しく動き、未来をつかもうと懸命になった時代であった。りんもまた、時代の動きに翻弄されながら、一人の女性としての生き方を模索する。女性の自立のさきがけをなした『青鞜』は、根雨出身の生田長江のバックアップによって生まれたが、作中には若き日の長江も登場する。
静かな山峡の地である日野谷は、かつて「たたら」の炎と人々の熱気で熱く燃えていた! それは、わずか百年前のことである。今また私たちは、新しい時代に向かって動き出すときに来ているが、りんの物語はそんな私たちに、勇気と希望と、そして温かな涙をもたらしてくれるだろう!
「次の朝ドラは“ゲゲゲ〜”に続いて『たたらの女房』じゃない?」とか、また「○木賞!」なんて声さえ・・・。いま様々な反響が寄せられている松本薫さんの新作、話題沸騰の長編時代小説『TATARA』。
舞台はたたらの炎が燃えさかる明治期の奥日野。根雨の近藤家に残された古文書の解読によって明らかにされてきた「たたら経営」の実態や、近代化〜日露戦争に向かって突き進む明治国家と当時の世相、根雨が輩出した評論家・生田長江にまつわる文学史的エピソードなどが巧みに織り込まれながら物語の骨格=舞台が形づくられる。
そのリアルな舞台上で織りなされる人間模様・・・。亡き父の「賢く強くあれ」という言葉を携えて懸命に生きる主人公の「りん」、息子となった直矢、手代の夫・徳蔵や村下の誠吾など「たたら」に命をかける男たち、またそれを支える女たちの葛藤、鉄山師「黒井田家」の当主や家族など一人一人の人物描写も絶妙で、筋立てはフィクションであると知りながら、読み進むうちに壮絶な明治という時代の真っただ中に我が身を置いているかのような錯覚に陥ってしまう。面白い!一気に読み切ってしまう。
こっちから前振りしたわけでもないのに、「“たたら”にはちょっと興味があって・・・」と、松本さんのこのひと言を米子市尾高町の市民サロンで耳にしたとき、内心「やった〜!」と手を打っていた。一昨年から日野・日南の商工会が、今まで地元では見向きもされなかったかつての「たたらの歴史」に手を染めて、それに自分が一役買っていたこともあり、どうしたら地域内外にその歴史を知って頂けるかと苦慮していたときのことである。すぐさま松本さんを口説いたのは言うまでもない。そうして今、松本さんの筆力がミラクルを生み出した。
歴史的事実や数字などを列挙されても、それでヒトは「理解する」には至らない。リアリティを以て感情までをそこに移入して、初めて物事の本質に迫ることができ、本当の理解が得られるものだと思う。これを読んでもらうことで一部のマニアに限らない多くの人たちに「奥日野のたたら」を解って頂けるのである。いま、この小説『TATARA』を担いで、全国デビューを!などと無謀な夢を描いているヤマガの住民たち「伯耆国たたら顕彰会」の面々である。(by一寸木)
変A5版 451ページ(巻末資料別)
著者/松本 薫
監修/影山 猛
装画/倉鋪 悠
企画・編集/(有)地域未来
発行/伯耆国たたら顕彰会
価格/1,850円(消費税込み)
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小説 「生田長江」を出版する会
Tel/0859-72-1300
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始まりは明治の終わり頃。嫁ぎ先から離縁された南原律(21歳)は、根雨から上京し、生田長江の家で家政婦として働き始める。
翻訳家、批評家として名を挙げつつあった長江は、女性の文芸活動を後押しし、平塚明子(らいてう)に『青鞜』の発刊を勧めた。その様子を見ていた律は、自分も自立したいと考えるようになる。
大正時代に入ると、長江はデモクラシーの先頭に立って活動する。社会主義への接近、妻・藤尾の死、『資本論』の翻訳と挫折、ニーチェへの親しみ、過酷な病……。時代と向き合い、自分自身と格闘する長江に影響を受けながら、律もまた自らの生き方を模索していく——。
●小説『TATARA』の主人公、りんは晩年、黒井田家(近藤家がモデル)で奉公にあがった若い娘たちに勉学を教えますが、「律」はその中の一人であったとの想定で、女性の生き方、人としての成長、そして歴史が脈々とつながっていて、そうした意味で『火口に立つ。』は『TATARA』の続編と呼ぶことができます。
明治〜大正〜昭和にかけて翻訳家・批評家として中央文壇で活躍した生田長江。
当時の家父長制度や男尊女卑の世相の中で、いち早く男女同権の主張を掲げる『青鞜』の発刊を支援し、また社会主義や資本主義の限界性を看破して、それを乗り越えようとした先見性は、今も根強いジェンダー不平等、地球の温暖化、格差の拡大などが全人類的な問題となり、SDGs(持続可能な開発目標)が声高に叫ばれる今日において、いよいよ再評価されるべきものです。
そうした長江の論評については難解さが伴い、なかなか理解しにくい側面がありますが、彼の中央文壇での華々しい活躍ぶりやその人生、人となりを織り込んだ読み応えのある小説として著されたことで、広く全国〜世界にその思想と存在を知っていただけると思います。
尼子と毛利が争い合う戦国時代。月山富田城のふもとで育った波留が、踊り子となって生き別れた妹を捜しに出る。旅の途中、十七夜の場で情に篤い江美城主・蜂塚右衛門尉と出会い、乱世を懸命に生きるが、やがて江美城は落城。城主や家臣らとともに悲しい運命に果て、失われていった人たちの魂はやがて天の蛍となった・・・。
これは五百年の時を経て今なお受け継がれる『江尾十七夜』の由来に迫る物語りです。 ●作詞/松本薫「天の蛍」イメージソングはコチラから!
東陽新聞米子支局の記者・牟田口(むたぐち)直哉と高校生の娘・春日(はるひ)。ある日、春日と友人たちは、オオクニヌシゆかりの赤猪岩神社で男性の遺体らしきものを目撃する。しかし直後にそれは消え、翌日、日南町の大石見神社で男性の遺体が発見される。報道記者として追いかけるうち、直哉は事件に秘められた自らの過去に近づき始め・・・。親子の周囲で巻き起こる、過去と現在をつなぐさまざまな出来事。作家松本薫さんが手がけた初のミステリー!
日本独自の製鉄法、たたら。生産地の移動や製鉄技術の革新からその発展を探り、「海のたたら、山のたたら」という視点から多様性が明らかにされています。近代化の中で果たした役割を考え、産業や暮らしを支えてきた「たたら製鉄」の実像に迫ります。
■A5版、237ページ、1800円+税
「たたら」の研究は文理を超えてさまざまな角度から専門的に行われていますが、一般の方にはその全体像が捉えにくいという側面があります。そこで鉄のことや製鉄の原理、もちろん歴史のことやたたら操業の実際などを、イラストを多用して小・中学生にも解るように解説したのがこの「副読本」です。
■A5版 全64ページ(カラー)
たたらの楽校・根雨楽舎に入ってすぐ右側に掲出している「絵図」をB2版のポスターサイズにしたものですが、ご好評いただいて在庫切れとなってしまいました。
そこで右をクリックしていただくと、拡大してご覧いただけるようにしました。
膨大な物量や人力を動かす「たたら製鉄」はとても裾野の広い産業で、初めて接する皆さんには、なかなか全体を掴むのが難しいと思いますが、物の流れや人々の関係などを一目で見ることができ、「たたら」への理解を易しくすることまちがい無し。これをもって少し理解が進めば、「たたら」はもっともっと面白くなりますよ!