鉄穴流し


鉄穴流しの概要

鉄穴(かんな)

●鉄穴師と称する人夫により、鶴嘴(ツルハシ)・打鍬・鋤などをもって山地(鉄穴)の土砂を崩壊させ、水を流して砂鉄を採取する。■元治元(1864)年、日野郡内に鉄穴数235箇所、明治9(1876)年に232箇所あり、合持も多かったが、やがて大鉄山師のもとに集積される。■郡内の鉄穴268箇所。

鉄穴懸開き

●鉄穴新設には、水を溜める堤、数キロメートルにわたる鉄穴井手、鉄穴崩し場の権利取得と造成、走り、足水、精洗場、小鉄置場、石ばね場、鉄穴師居小屋の造成、流し子手当など多くの労力と経費がかかる。■高額経費の例は明和6(1873)年、溝口庄村の緒形家鉄穴懸開き経費銀21貫120匁。

 

鉄穴流し

●山口穴打場(崩し場)は、山ふくらかにして肥たるがよい。削立たるように険阻なところは底に石がある。期間は農民の透間稼で米作りの障りを避けて、秋の彼岸から春の彼岸までとする。



場所・機能

堤(つつみ)

●鉄穴流しの用水を蓄える溜池。■水の不自由なる鉄穴は、井手の頭に堤を築き、水溜池を据えて、夜の間に流れ捨たる水をたたえて置く。■底は粘土で固め、排水は土樋の上下にある蜂の子(栓)の抜き差しで調節する。底を固めることをはがねとも言う。

 

井手(いで) 

●鉄穴流し用の通水路。井手幅を狭く、深くすると雪の支えがないが、さらに雪害を防ぐため、蓋をして土で覆う。山の頂上での通水は水が減り易い。

 

宇戸・打戸

●鉄穴場で山の掘り崩し口。鉄穴口・山口。洞。

 

切羽(きりは)

●鉄穴流しの際、土砂を掻き落とした断面のこと。●炭鉱や鉱山における採掘や坑道、掘進する坑内の現場、あるいはトンネルの掘削面のことを言う。

●また「せっぱ」と読むと、① 刀の鍔(つば)が、柄(つか)と鞘(さや)に接するところの両面に添える薄い金物。転じて②さしせまった困難。きわめて困難な時。■切羽詰まる。 

 

山口・宇戸

●鉄穴砂の崩し口。

 

走り・砂走り

●鉄穴(崩し場)から沈殿地までの濁流水路。短くて数町、長いのは一里。この間に土砂は粉砕され砂鉄が分離する。

 

どんど

●鉄穴流しの走りにある滝と滝つぼ。■走りに滝があって、流れ落ちる谷の長いのを吉とする。砂石が滝に打たれて細かに砕けるが故。

 

下場

●砂鉄精洗場。上流から大池・中池・乙池とあり、更に樋で精洗することもある。

 

添水

●鉄穴流しで、本流の井手に他の水源から水を引き入れること。

 

足水(たしみず)

●鉄穴流しの際、新たに入れる水のこと。清水井手とも言う。走り水は濁っているので、精洗場近くに別の水源から澄んだ水を引入れる。

 

籠り小屋

●鉄穴流し場の鉄穴師居小屋。

 

落場

●鉄穴流しの精選場から流出した砂鉄を、下流の川までに池をつくり、さらに採取する場。

 

洞(ほら) 

●鉄穴場で山の側面を掘った穴、またその跡地。崩れた土砂の下敷きになることを、「ほらに打たれる」と称する。

 

打てる

●鉄穴場(かんなば)で山口を掘削中、不慮に崩れて来た土砂に埋まること。毎年数人の死傷者が出たが、村根帳を持つ流し子(鉄穴師)のときは藩と在の役人で検視した。

 

隔年流し

●奥日野では乏しい水を一年おきに譲り合って鉄穴流しをしたところもある。

 

川場

●河川に堆積している砂鉄の採取場。川に?川を掘り洗い流す。郡内342箇所。

 

鉄穴遣い道具

●打鍬・斧鍬・釿鍬・熊手・鞴(道具直し用)・大小鍛鎚・木切など。

 



鉄穴流しの職人

鉄穴師

●鉄穴流し作業人。流し子とも言う。●大鉄穴で山口穴打(崩し)に10人から15人、春分、水の強いときは20人も必要。精洗場で小鉄を取り上げる。「居士」は3〜4人。●鉄穴所有者と鉄穴師の利益配分は、採取した砂鉄の半分を流し子へ、後は持主へ与えるなど玄武の配分が多い。■防寒用足回り用品は甲掛(爪籠をはく前に踵を覆う布切れ)。草鞋。爪籠(足先に履く藁で編んだ、つっかけ様のもの)。はばき(いぐさなどで編んだ脚絆様のもの)。

鉄穴師頭勤方

●山替えや、宇戸替えは本小屋手代立会の下で差図をうける。●仕事は鉄穴口の見回りと井手懸り水の有無多少、池川の様子見。谷番の回り役を定める。鉄穴師賃銭の上下をきめる。山口穴打ち場頂上の石の処理。堤・池・樋の見分と池の樋穴の、のみの差し抜き。出水時取上砂鉄流出防止対策。落土に埋まった者の救出(早く水をはずし手で掘り出すこと。)



砂鉄

砂鉄

●山陰・山陽の分水山脈及び支脈の花崗岩系岩石が風化して、崩壊し易くなった部分で百分の一内外含有し、水利の便利なところを選んで採取。中国山地系の砂鉄は挟雑物中最も有害な銅を含まず、硫黄も百分の一以下、燐も赤目は千分の一、真砂は万分の一内外。

 

小鉄(こがね)

●砂鉄・鉄砂のこと。また粉鉄のこと。

 

真砂(まさ)

●黒色の光沢を有し、全部磁鉄鉱類。日野川の左岸は概して真砂を産出し、殊に大宮より採取する品が最良とされる。

 

赤目(あこめ)

●褐色を呈し、磁鉄鉱の中に褐鉄鉱、または赤鉄鉱を混えている砂鉄。日野川の右岸に産出し、多里・石見・福栄村が最も豊富。銑鉄を生産するのに適している。●備中の国では、赤土の中より流し取る粉鉄(小鉄)あり、あこめ鉄と申し、性合能き粉鉄なり。伯州も、のぼり押(↓たたら操業)に是を用いる也。

棚買

●鑪場へ運び着けての買付価格。砂鉄の置き場は川口(採取した川の近く)、中場(増水しても流出しない場所)とあるが、棚場とは山内の砂鉄置き場。

 

並洗

●採取した砂鉄の純度が50〜60%とまだ砂の混入の多い砂鉄。純度の高いのは真洗。

 

真洗 まあらい

●鑪場に納入される並洗砂鉄を、更に小鉄洗い職人が純度を高めること。鉄穴場でも真洗するときもある。

 

水小鉄

●水分を多く含んだ砂鉄。

 

たね 

●爐に投入する砂鉄。籠りでは30分ごとに大炭、たねを交互に投入。