設備・たたら操業

たたら

たたら

●鑪・鈩・高殿・鞴鑪・蹈鞴・蹈鞴多々良・踏鞴・鑪鞴。●6世紀に始まったとされる日本古来・独特の製鉄法のこと。●たたらという言葉は元来「鞴(ふいご)」を意味する言葉とも言われる。また製鉄を伝えた「タタール」に由来するとも言われる。●漢字で鑪と書いてたたらと読ませ、以後、蹈鞴で鉄を吹くことから鉄を製錬する炉のこと、炉全体を収める高殿のこと、さらには製鉄工場全体や産業全体をもたたらと言うようになった。■日本書紀に事代主命(ことしろぬしのみこと)の姫で、神武(じんむ)天皇の后になる「媛蹈鞴五十鈴姫命(ひめたたらいすずのひめのみこと)」の名前が出て来る。日南町・福榮神社の祭神の1柱でもある。

 

鑪(たたら)打込

●たたらを新設すること。■蹈鞴造り立ては、湿りが少なく、水懸りも必要のため、小高い土地で谷ばたがよい。深山で木山に近く、駄賃下直、小鉄取場と村里に近く、米が沢山あり、牛馬も多く、元釜土も採れる所がよい。■たたら打立ては、人夫三百人役なら上々吉。難工事となると千人役数知れず。■明治21年、日野町大西山(近藤家鉄山)打込見積では、地形新田師50人、水揚小鉄場づくり70人、床釣には捨尾師其他100人、山内諸建物建築大工236人、日用50人の他に床焼夫60人、天秤吹子造り大工120人、合計680人役を見込み、さらに建築材焼灰木4万貫、鑪押道具、狸皮47枚、銑千駄用の砂鉄など総合計1300円の経費を計上している。この他に、大炭、小炭焼きの経費が加算される。



諸施設

大どう場・どう打小屋 ※「どう」は金偏に胴

●槽上部に約300貫の楔状の大鉄塊(どう)を縄で止め、下に鉧塊を置いて落下させて碎く装置。●破片が散り危険のため独立した建物をつくる。●どうを梢に釣るしておき、重鉄に落し当てて割る(はね木折)。※どうは水力(水車)か人力で、約10メートルも持ち上げた。

 

本小屋・元小屋・元古屋 

●鉄山の管理事務所。手代5〜6人が常時配置されている。■場所は鑪・鍛冶屋・山内小屋がひと目に見えるところがよい。

高殿

押立柱(おしたてばしら、おったてばしら)

●高殿(鑪)建築四隅の主要柱四本。●鉄穴場、鉄山林などの諸権利は、この四(本)を全体として合持計算をすることが多い。例えば押立一本は二割五歩。●押立柱の脇柱は宇立柱、宇立柱の内、仲押立は中央の柱。

 

指図板

●爐床の幅をきめる幅5寸内外の二枚の板。縦にならべてこれを窯の中通りとする。■明治33年の多里新屋山銑押指図、中央7寸5分・両端5寸。明治40年の日野町菅福山鋼押中央7寸3分・両端5寸。

 

丸打ち高殿

●大屋根の四方が丸くなっている高殿。伯耆から奥出雲煮かけてよく見られる。■雲南市吉田町、菅谷山内に現存する「角打ち」という形もある。

 

長尾

●高殿屋根上部から、屋根を保持するため放射状に出す木。■山取りは、目通り2尺回りから3尺回り。長さ七尋(ひろ)で75本。 ※1尋は6尺(約1.8m)

 

火内・火宇内

●高殿真上の通風孔。火が入れば、本古屋からも消火の手伝いに行く。



本床・床釣り

本床

●たたらの炉を設置する一帯。■床場は横三尋(ひろ)半、縦七尋、深さ一丈位、水が出れば一丈六尺余り掘る。本床の長さ三尋半、小舟も同じ、床の深さは土居の上まで五尺三寸、本床の底幅三尺二寸あれば小舟は半分の一尺六寸。■本床は小石をまじえて土を練り、塀の如く四尺塗上げ、次に木を積上げ、上は蒲鉾形に元釜土で甲をかけ火を燃やす。木が灰になると、また数回やくが、これを「床を焼く」と言う。小舟も同じく木を込めて焼く。新床を焼く木は三万貫目。

床釣(とこつり)

●鑪打込・本床。炉の下に設けた除湿のための構造。

 

大舟

●爐(炉)の真下にある本床を乾燥させる施設。

 

小舟

●爐床を乾燥させるための地下構造物。大舟をはさんで左右二つつくる。



下灰

下灰

●炉を新設する際、炉の下の水分を除去するために行う作業。●桧の板の上で木を揉み火を出して、この火で本床の上で割木凡そ400〜500貫焚き、これを槍の柄大の生木長さ三尋ばかりのもの(しなえ)で一方に四人宛、両方より連打して打ち平ろめ、これを四回くりかえし終る。爐床は丸樋形にする。

 

 

ころばせ焼

●下灰のとき、役木を本床の上であちこち転ばせて焼くこと。

 

灰すらし

●本床の甲と小舟の甲に盛りあげた木が火になったのを、両方の焼口へずらし込んで平らにする。灰番(灰をつける)

●爐床となる下灰は、丸樋形に平めるが、その中央部の深さを定めること。一番は人指指の幅 二番は人差指と中高指を合わせた幅 三番は人差指と中高指と無名指を合わせた幅。

 

焼灰木・焼木

●爐床の木炭粉の補充、および築爐の乾燥に焚く木。■槙・藤・かつらを極上とする。深山ではぶなの木がよい。

 

役木

●釜の乾燥、小鉄の乾燥に焼く木。堅木は極よし、栗は甚だ悪しき木。

 

下駄

●てらしのとき、一面火となるので、各自で拵えた下駄を用いる。



炉・釜

釜寸法

●砂鉄製錬爐の寸 

法のこと。鋼(鉧)押と銑押で異なる。

■鋼(鉧)押/長さ9尺4寸より一丈まで・幅3尺3寸より4寸まで・高さ2尺5寸より6寸まで。

銑押/長さ7尺5寸より8尺5寸まで・幅2尺8寸より3尺1寸まで・高さ3尺より3尺5寸まで。但し上記は足踏天秤の頃で明治20年代、水力による送風機が出来ると爐は高くなる。

 

釜土

●白粘土と赤粘土を配合し、熔融点の中庸を必要とする。一回の築爐に約1000貫を要する。■珪石の混淆して最も粘着性の多き粘土はよく烈火に耐える。

 

かま塗り(釜塗毛)

●早朝よりはじめ、夕方迄に終り、夜間はかまの内外に木を焚き乾燥させる。

 

木呂・気呂・喜呂

吹子から爐への送風管。竹を用い、先端に鉄の口金をつける。

■木呂穴の高さと本数

 鋼(鉧)押/大平(爐の長側面)7寸〜7寸5分 内側5寸〜5.5寸 木呂20〜21本

 銑押/大平5寸〜5.5寸 内側3寸〜3.7寸 木呂18〜19

■木呂竹/竹を截り揃えて節をぬき、皮をけずり捨て乾し上げ、澁粘で上を紙で三重にはり、葛かずらを二つ割にして巻く。

 

 元釜士

●釜の下部に使用する土。上部は二割土。■砂が少なく、ねばりがあって白色の土がよい。水晶砂の交わるものがよい。

 

二割土

●元釜をつくるに用いる極良質の釜土。

 

程穴・火戸穴・保土穴・風穴

●爐の長側面に相対する20箇内外の木(気)呂の上にある爐壁を貫通する送風孔。程穴より爐中を見て砂鉄の溶融度で吹方を加減する。

 

程突

●程穴から竃中の模様をみて、棒を入れて突き、加減する。

 

程土・火戸土

●木呂と程穴の接続するところを掩う土。

 

つぶり・頭

●吹子と気呂の間にある風のたまり場。

 

鑪仕懸

●掃除をして上釜をつぎ、中をさらえ捨て棹炭を立て、釜にうず高く炭をくべておいて鞴(ふいご)を仕掛ける。この日を仕懸の日と申す。

 



鞴・吹子

鑪の種類

1)四つ鞴蹈鞴(ふきたたら)/大炭2200貫目位にて一夜(代)押有。片方(側面)に後鞴と前鞴吹子二名据えて計四名で吹く。

2)一人蹈(ふみ)天秤蹈鞴/大炭2400貫目位、片方一人ずつ踏む(これは四つ鞴に同じものなり)。

3)二つ鞴蹈鞴/大炭2300貫目にて、側面に一名ずつ吹差吹子を据える(天秤の仕掛と同じ)。

4)四人蹈(ふみ)天秤/大炭4000貫目余(片方二人ずつ蹈む)。

5)八つ鞴(ふき)/大炭4000貫位。

6)五つ鞴(ふき)/大炭3000貫位。

7)一人半蹈(ふみ)天秤蹈鞴/大炭3000貫位。

 

強吹き

●砂鉄投入量を多くすること。低燐銑鉄(近藤家鉄山) ■塩基性の鉱滓を熔銑の上に溜めて、上部より滴下する熔銑をこの鉱滓で濾過させ、若干の脱燐をさせる。熔銑はなるべく長時間炉底に築溜して品質を均等とさせる。出銑は砂型に鋳込む。明治41年、初めて製品を市場に出す。大正3年、従来の鋼押のたたらを全部低燐銑鉄の製造に変更する。

天秤吹子

●鞴の一種。左右両側で空気を圧送、番子が両脚で左右交番で踏む。

 

天秤風器 

●二百年余り前に(安来市伯太)家島氏発明、二人宛交番に六人掛り。

 

狸皮

●天秤、吹差吹子に用いる弁の材料。空気の洩れぬように狸皮を張る。■明治21年日野町(近藤家)大西山鑪打込み見積には年間47枚、一枚35銭で購入予定。明治30年全鉄山の年間買入れ予定は一枚35銭で155枚。■鞴の狸皮のかけ直しは釜塗日。■山狸は腹皮に毛がないので安くても損となる。初秋より寒中に取れるものがよい。播州の皮毛、山陽道の狸がよい。皮は薄くてしなやかなものがよい。鍛冶屋鞴子二挺に狸皮8枚。

 

トロンプ

●近藤家で鑪合理買いのため、番子にかわる水を利用した送風器。明治24年頃全鉄山に備え付けたが、風に湿気がこもるため、次第に水力によるビストン式吹子にかわる。



操業

一代(ひとよ)

●たたらで、ひと区切の操業期間をさす。鋼押は三昼夜、銑押は四昼夜を一代とする。●また別に、山林の生木量の推計単位で、大炭2千貫目生産見込を一代とする。

 

鋼押・鉧押(けらおし)

●砂鉄より直接鋼を製造する方法。操業は三昼夜。原料は真砂砂鉄。炉の高さを銑押より低くして木呂の勾配を急とする。

 

銑押(ずくおし)

●赤目砂鉄を原料とし、操業は初日の窯造りを除いて四昼夜連続する。四日目は爐壁が薄く3〜6cmとなるので爐をこわして造りなおす。出来る銑鉄は4〜6t。

 

鑪操業(手順)

●籠り/操業初期。こもり小鉄は、釜の空虚な所へ入れて銑を吹涌かすので最初が大切。山口小鉄に適したものがなければ、川小鉄を洗って用いる。

上り・登り/操業中期

下り・降り/操業後期

 

籠り

●ひと代の爐の操業初期。■こもり小鉄は定まりがあり、釜の内、空虚なところへ焼(く)べて銑を吹き涌かすので最初が大切。川場小鉄を洗いあげて使用。

たね 

●爐に投入する砂鉄。籠りでは30分ごとに大炭、たねを交互に投入。

 

初銑

●吹立(操業)当日、竃の小平(短側面)の下口(熔銑・鉱滓の流出口)より出る鉱滓を取り除けて初銑を吸上げて冷却し、金屋子神に供える。

 

よつゆず

●爐操業中、前後四隅に穴をあけ銑を流出させる。

 

火立(ほたて)

●爐底部の両側が漸次熔融して広くなるので、両側中央部の穴を閉じて二個の流出口を開く。操業二日目の作業で、火立の日と称する。

 

鉧(けら)

●鋼(鉧)押は砂鉄が還元されて、炭素を吸収する量を1〜1.5%位に留まるように加減して吹く。含炭量の少ない鉄塊は熔融熱度が高いので爐内で溶けずに塊状となる。これを鉧と称する。●操業二日目頃から鉧が次第に大きくなり、三日目には爐床全体に広がり、幅三尺・長さ八尺・厚さ一尺位の大鋼塊となる。

 

丸爐吹き

●日南町新屋(近藤家鉄山)では、大正8年から10年まで、石灰石を投入して鉄滓を製錬する丸爐吹きを操業した。