生産物・輸送・単位


鉧・鉧出し

鉧(けら)

●鋼(鉧)押は砂鉄が還元されて、炭素を吸収する量を1〜1.5%位に留まるように加減して吹く。含炭量の少ない鉄塊は熔融熱度が高いので爐内で溶けずに塊状となる。これを鉧と称する。●操業二日目頃から鉧が次第に大きくなり、三日目には爐床全体に広がり、幅三尺・長さ八尺・厚さ一尺位の大鋼塊となる。

 

湧荷

●鑪生産物の銑・鉧。■一代の湧荷平均は近藤家でみると、銑押で明治20〜30年代で50駄内外、40年代に60駄前後、大正期には60〜74駄。鋼(鉧)押では明治20〜40年代に50駄まで。■明治中期、銑押湧荷一駄に投入した砂鉄は並洗4〜5駄、鋼押に三駄前後。■小鉄は三駄を蹈鞴に吹いて、銑一駄涌くが上々吉。

 

火鋼

●鉧を自然冷却させて取り出した鋼で、千草鋼とも称し、白くして光沢があり、刀剣、刃物の刃先に用い、日野郡ではこれを好む。破断面は白く金属光を放つ。※鉄池で急冷したものは「水鋼」という。

 

千草鋼

●爐より引出した鉧を自然冷却させて鋼を取り出したもので「火鋼」とも言う。出羽鋼と品質は変わらないが、需要者の好みで火と水にわける。

 

水鋼

●鉧を鉄池に投入し、急冷させた鋼。出羽鋼とも称する。●色は青色で稍黒みを帯び、刀剣及び刃物の刃先に用いる。破断面は僅に茶褐色を帯びる。水鋼と火鋼では化学成分に変化はないが、取引の習慣による。

 

出羽鋼(いずははがね)

●水入刃金。鉧を高殿より引出して、鉄池で急冷させた鋼。出羽は石見国邑智郡、国元では邑智?鉄と呼ぶ。

 



鋼・刃金

はがね(鋼)

●刃・刃金・剣・釼。

 

玉鋼

●「鉧押し(けらおし)」によって直接製錬された鋼のうち、良質なものに対して付けられた明治期以降の呼称。最上質の鋼として日本刀の製作には欠かせない物とされている。■元来はこぶし大の良質の鋼のことであったが、後には鋼の総称となる。■呉造船所は1箇300g以上のものを要求。

 

目白 

●鉧・鋼の100匁以下の品物。

 

砂味

●目白より少し下等の鋼。

 

鋼箱

●鋼は木箱に入れ、菰包に縄をかけ出荷する。近藤家では明治10年、正味12貫目(一束)に統一。



加工前

折地(玉鋼)

●鉧の中の鋼でも刃物原料として良質のもの。鉧は大どう場で五寸立方位の不定形の鋼塊とするが、この鉄塊は空気に触れた部分が黒色に酸化し、且つ性質が不純のため、この外皮を手鎚で打落し仕上げたもので、この内品質優良なものを折地と称し、下等のものを上鉧と称する。

 

上鉧(じょうけら)

●どう場の鋼塊を仕上げして、上等の鋼を折地(玉鋼)、下等を上鉧と称した。上鉧は大鍛冶場に回す質の悪い鋼で、最終的に錬鉄にする。

 

折鋼

●鋼造り職人が、割った鉧の中から鋼を取出し品質ごとに仕分けたもの。

 

鍛鋼

●鉧中の鋼は炭素量が不同、または多すぎるので、小鋼塊を火窪で熱し、鍛錬して折曲げること数回、脆くも軟弱でもない品質の一定となる鋼にする。当地方で行わない。播州三木町では特にこの技術が発達し全国に出す。

 

歩鉧(ぶげら) 

●鉧の中でも銑分や多少の雑挟物を含む下等の鋼で商品とならず、大鍛冶地鉄とする。



加工後

小割鉄

●歩鉧・銑を地鉄として大鍛冶で錬鉄とした製品で、小鍛冶での加工用に出荷。■近藤家での生産種類は明治24年で、小割・丸延・鉋丁地・さく地・板鉄などに鎚地・煉床(床地)を加えて10種類、更に溝口福岡山の錬鉄4種類を入れて14種類あった。■最も薄くて軽い割鉄は、長さ2尺2〜3寸まで、幅3寸5〜7分位至極上、重さ700匁通例、一束に19〜20本入が上。

 

千割鉄

●鍛冶で普通小割にする四本を割らないでそのまま角に延ばした鉄。日役で24本つくるが11本で一束とするが上。

 

板鉄 

●小割鉄の打立では四枚とする作業を三枚とする。製品の長さ一尺五〜六寸、幅四〜五寸、一束に八〜九枚となる。

 

切刃(きりは)

●小割鉄の厚さ四分の三位は、灼熱中にたがねで溝を切り、残りの四分の一は、冷却後鎚で割る。この令断面(切刃)は錬鉄の品質を鑑別するに極めて重要である。なお、割らぬ鉄を丸延と称する。

 

証合・性合

●小割鉄がよく鍛錬してあり、雑挟物がぬけ、目合が揃っているかどうかを破断面からみた判断。

 

丸延

●割鉄の鍛造で、破断面をつくらぬ鉄。

 

落鉄

●指定の寸法・恰好に合わぬ割鉄。渡し鍛冶の仕出し落鉄は一割引の価格で引取られた。

 

頃鋼

●元来、人頭大の鋼塊。

 

細鉄

●爐・大鍛冶また鉄池などの周辺に散乱している銑・鋼の細片。女子供が拾って床地(金床)などの材料とした。

 

鎚地(つちぢ)

●品質の落ちる地鉄が溜まったときつくる。重さは2貫500匁より5貫目位。地鉄からの歩留まりは5歩。

 

造粉

●鋼造で細片化した鋼の粉。

 

為登鉄(のぼせてつ)

●大阪鉄市場に出荷する鉄類。

 

乙庭

●山内に準備していた最後の鉄荷。

 



銑鉄

銑(ずく)

●鑪の爐で還元された炭素分を多く含む鉄。●流し出した銑鉄は、少し冷やしてから屋外に出し鉄池に投じる。大塊・小塊もあるが、鎚で3〜5貫目に砕き、錬鉄や鋳物の原料とする。

 

白銑

●銑鉄はすべて白銑。大部分は錬鉄の原料とするが、昔は一部を鋳物用に出荷。銑鉄は熱度の低いため、全部白銑鉄となり、鼠色銑は出来ない。赤目白銑と真砂白銑とがある。

 

蜂目銑

●爐の調子不良のとき蜂目銑となる。氷目銑より歩留りがよく、割鉄の証合もよい。

氷目銑

●氷のような目合(じるいと表現される)の銑。爐の工合良好のとき氷目となるが、左下場で忽ち流れ、左下鉄の歩溜りが悪くなる。また地鉄からの精錬鉄の歩溜りは蜂目銑より悪い。

 

特殊銑(低燐銑鉄)

●明治43年、日野町菅福山(近藤家鉄山)は、初代立灰6番、釜9尺・3尺3寸・指図7寸3歩、木呂19本で特殊銑をつくった。

 

裏銑 

●炉の下部に付着した銑。

 



鉱滓

鉄糞・鉄屎(カナクソ)

●鉄滓(てっさい)・のろとも言う。鑪では砂鉄を初めて爐内に入れてより、大抵三時間を経れば熔解し、鉄滓は爐前後両面の孔穴より自ら流出する。●鑪(製鉄)の際に出てくるカナクソは製錬滓・精錬滓(せいれんさい)。大鍛冶の作業で出てくるのは鍛冶滓(かじさい)。

 

鉱滓・鉄糞・のろ

●洋式の熔鉱爐は熱風装置があるので、熔媒剤として石灰石を混入すると、鉱石中の珪酸分は石灰と化合して鉱滓隣、鉄分は全部回収されるが、たたらは温度が低いため、砂鉄中の珪酸は鉄と化合し鉱滓となり鉄分の損失となる。

 

からみ

●?の表面に付いている鉱滓。流動性の高いからみを造るため、操業のはじめ珪酸分の高い砂鉄の洗い滓を投入する。

 

残槽・残雑

●主として鉱滓。捨場は村方と協議。



生産地

印賀鋼(いんがはがね)

●初めは、建長年間(鎌倉時代1249〜1256年)、印賀の阿太上(あたあげ)で古都文次郎の手で製錬した鋼。

■印賀鋼の性強き所と言うは、色ぎらぎらと白く、目合しまりて堅く、目細かに塩目なるを上とす。この商標は、青砥・手嶋・近藤家と引き継がれる。

 

異鉄 

●幕末からの輸入鉄。西洋鉄、洋鉄とも言う。その当初は門扉・長持・箪笥・櫃などの金物には異鉄が使用され始め、和鉄(たたら製鉄)は刃物・船釘などに限定され始めた。※「たたら」では手間をかけて調達する砂鉄と木炭を用いるのに対して、鉄鉱石と石炭(コークス)を用いるためコストがかからず低価格で、やがて和鉄を駆逐した。



輸送

駅馬 

●諸荷物継立運送。溝口・二部・根雨・板井原・黒坂宿に本馬・軽尻が合計60匹内外配置された。●従来は鉄荷も駅馬を使ったが元文5(1740)年、大阪への登り荷を除き、鉄山師の手馬使用が許された。

 

川舟

●日野郡流域の鑪は、対岸との物資交流に各地の渡舟を利用したが、黒坂緒形家が矢戸〜根雨間に鉄穴舟を通わせたこともあった。●日野郡奥地の近藤家産鉄は、新見まで陸路、新見から高梁川の川舟で玉島まで送られ、また作州での産鉄は勝山経由で旭川の川舟で岡山まで送られた。●明治17年から19年の間は、根雨〜米子の車尾間に川舟が通い、多くの鉄荷を運んだ。

 

鉄山舟

●日野川対岸への渡し舟は、鉄山が利用するとき改造費など負担したので、鉄山舟と呼ぶこともあった。

 

坂越

●領内から他領へ物資を移出すること。米・鉄など統制下におかれた。

 

三湊・三港

●近藤家の為登鉄類出荷港。米子(境)・玉島・岡山港。

 

はんきり車

●はんきり(馬桶)のような車輪の車。

 



計量の単位

駄(だ)

●荷物の単位。割鉄や地鉄は1駄が27貫(約101kg)。湧荷は明治初年、銑27貫、鋼24貫(12貫入二箱)、明治中期から銑30貫、鉧30貫。砂鉄30貫。■伯州日野郡ばかりは小口取りの小鉄は納升2斗4升を一駄とし、川小鉄は30目を一駄とする。駄賃は30貫目を一駄。■大炭20貫一駄。※明治時代に1貫は3.75kgとして定められた。

 

束(そく)

●鉄類出荷量単位で、一束は13貫500匁。二束で1駄。

■1束は約50kg、1駄は約100kg。

▶︎質量単位の貫は、1000匁に当たり、明治時代の1891年、度量衡法において正確に 1貫 は3.75 kgと定義された。江戸時代の一貫は平均して3.736 kgで、年代を通じてほぼ一定であったが、江戸時代後期(19世紀以降)にやや増加して3.75 kgを超えたという。

 

駄賃

●駄馬による運賃。運送賃。これが後で転じて子供への報酬、お駄賃となった。■炭・木・土の駄賃は36町1里に付き30貫目一駄40文。米なら一升宛。山坂は増あり。

 

千木(ちき)

●重さを測るはかり。32貫目がけ1挺、70匁がけ銀秤1挺、分銅をそろえた天秤1挺、味噌用500匁がけ人棹必要。

 

小鉄枡

●小鉄の計測には各地方、各鉄山師ごとに異なる枡を用い、嘉永6(1853)年には段塚枡以下緒形・水尻・二部谷・備中など14通りの枡があった。■段塚枡は30貫、備中枡は20貫入り。 ■方一尺1〜2寸、深さ6〜7寸の底無し枡、これを二杯で一駄とする。

 

吹き

●大鍛冶錬金作業の単位。一工程約一時間を一吹と称し、1日8〜10吹。