山内の暮らし


山内の概要

山内

●広さ一町二反前後の土地に、鑪生産施設と就業者の集団生活の場があった。本小屋手代5〜6人、職人数拾人とその家族が住んだ。村方との交際は禁じられ、外出は許可制、門番もいた。居家は小割長屋。

 

茶園

●野菜畑のこと。山内に住む人の食料として、村人の同意を得た場所につくる。明治後期には、山内各戸で畑をつくる。

 

下小屋・小割長屋

●山内居住の手代と、職人及び家族の住宅。

 

地蔵(ぢぐら)

●村々に置かれた貢納米の収納庫。鉄山の養米は、願米、はね米として地蔵からも払い出される。

 

どんぶり(丼)

●風呂のこと。■沸かすには、炭焚が熱い鉱滓を入れ、片付けるのは番子の役目。最初入浴するのは本古屋手代。女房は七代立まで入浴禁止、以後は朝方わかす二度目の温かくなった風呂に入る。■釜塗の火は(鉱滓がないので)炭の元、雑木の炭で据風呂を沸かし、どんぶりはたてない。

 

雪隠(せっちん)

●便所。山内茶園に使用した下肥の残りは村人に払い下げる。建物は村方で造ることが多い。

 

福岡山鉄山・福岡製鉄場

●溝口町福岡に、明治21年開業した近藤家鉄山。■鑪も備えたが、鍛冶部門は合理化のため汽鎚(蒸気機関)を備え、大正期は全鉄山錬鉄の80%を占める。「大正7年、製出高64万t、純益は6万円余。大正8年講和により鉄価暴落、白銑鉄370円余の品、120〜130円となる(手代細木仲三郎手記)」。■人別は鍛工監督一人、大工7、大工見習い2、左下8、汽罐見習1、ハンマー使い4、ケートル焚1、手子13、山配1、村下4、山子37、鋼造1、小炭焼11、大炭焚1、小銑洗1、小回(雑用係り)3、薪係1、炭焚夫1、鍛工小回り。

 



養米(やしないまい)

●鉄山職人とその家族の消費米。大きい鑪では年間700石前後消費した。■明治期は安い米を求めて海外からの輸入米も購入した。明治中期頃からは麦も支給。 ※米の1石は下位単位では10斗にあたり、同じく100升、1,000合に相当。成人1人が1年間に消費する量にほぼ等しいと見なされた。

塩噌

●塩と味噌。手間賃あてに貸したが、扶持の一部ともする。■貸付日は5・15・25日の三日間で、時間は竹貝を吹き知らせる。山子のみは5・20日の二日。

 

法螺貝

●扶持米、塩味噌などの支給日に、集合時間を知らせるのに使用。竹を細工して法螺貝の代用とした。

 



信仰、祭祀

日待

●鉄山では正月・五月・九月に日待御祈祷をして鉄山の安全を祈る。■新高殿釜塗日の夜は、日待御祈祷のため、山内中高殿に職人をはじめ、山内職人を呼集め酒を飲ませる。■本小屋には祝客として村方の主だった者を招き、山奉行・郡役人へは祝儀を出す。鍛冶屋へは供の肴・酒樽の外に酒二升、豆腐10丁、小肴を与え、大工・左下他の鍛冶職人、小炭焼に祝儀を出す。馬士が来れば祝酒、または銀二匁出す。山配・村下へは酒五合、他の職人・山子・小炭焼へ酒二合与える。■明治41年、多里新屋山(近藤家鉄山)では手子頭を通じて33人に祝金。■当日前後は、手子など西比田金屋子神社詣などで浮足だち、仕業に差支えた。■当日鍛冶屋は休日。

 

祭り

■金屋子秋祭りは旧暦9月11日、吹子祭りは旧暦11月8日、山子祭りは旧暦12月27日、他氏神祭り、種祭りなど。■金屋子神祭日は10月初子の日。

 

元山さん

●元山押立柱の後に祭る金屋子神のこと。■これは金屋子神が犬に追われて「神去ります」のとき、死骸を元山押立柱に立てたら鉄がよく湧いたとの言い伝えから。

 

犬飼い

●元治元(1864)年、新庄田浪山鍛冶屋の村議定には「山内に犬飼致させ間敷」と条項がある。「鉄山畜犬忌み嫌うこと」として金屋子神に絡わる説話がある。

 

桂の木

●金屋子神が白鷺にのって奥非田(奥比田・現安来市)の桂の木の枝に羽を休めたと祭文にあり、神樹とされ、各鉄山の近辺に樹えられた。

金屋子神(かなやごしん)・鉄屋子神

●たたらの守り神で女神とされる。金屋子神祭日は10月初子の日。●近藤家でも信仰が篤く、床釣の可否など西比田金屋子神社宮司から神託を聞いて決めるなどした。

 

禁忌

●「たたら」の失敗を恐れ忌みきらうこと。■役人(鑪の働き人)は、子供の生まれた家に17日間は這入らぬ。産婦と同じ火で料理した食物は30日間は食べぬ。高殿内へ犬を入れない。?苧を持扱わぬ。こもり(鑪操業)の夜は、村下・炭坂の妻は鉄漿(御歯黒)をつけぬ。月次の障ある女は17日間鑪に入らぬ。産婦の夫は17日間鑪に入らぬ。産婦は33日間鑪に入らぬ。高殿のうちで四足の肉は煎焼しない。魚類も本床の炭で炒らぬこと。鑪の道具には?苧を用いない。鑪で桂・父撫の木は燃やさない。

来尾

●一定の期間。例えば秋から春の彼岸までの鉄穴流し。または前・後期の鑪操業期間。

  

多々良入道

●鉄を千夜(代)吹けば、蹈鞴(たたら)入道と云う妖物が出て来て、鉄山の人を殺害すると云うことの往古よりの言習わし。

 

山の神

●山子など、山仕事する人の守護神。