大鍛冶
●小割鉄の精錬場。二間に三間位(3.6〜5.4mくらい)の一屋の土庭に大ふいごを据付け、火窪(ほくぼ)を設けて鉄床を据置き、傍に水槽を構え、火窪で地鉄を熱して鍛錬する。●鶏明(午前二時頃)に起きて本仕事、仕業は六吹。●天保期の頃、仕業は10吹、但し8吹まで本算用で、9〜10吹分は月末増として支給。●仕業は八吹。
●大鍛冶は普通、一鉄山に二軒。二軒で使用する地鉄は一日160貫、小炭は250貫、割鉄の生産は100貫。近藤家で最多は一鉄山に四軒。●一鉄山に延釼鍛冶屋一軒、小割鍛冶屋一軒也。
大鍛冶屋の種類
1)本鍛冶屋/歩(歩鉄)や銑(銑鉄)を地鉄とする小割鉄生産。
2)地物鍛冶屋/鉄(金)床の生産(25〜30貫目)。鉄池や山内の拾い鉄も原料に入れる。品質の悪い鉄が溜ったとき造る。
3)出鍛冶屋/たたらの場所と関係なく、小炭生産が多く見込まれる山に直接設置。
4)渡し鍛冶屋/抱子以外の鍛冶師に委託。
5)延釼鍛冶屋/?の中の鋼を鍛える。
大鍛冶錬鉄行程
一工程(ひと吹)約一時間の作業順序
1)焼鉄を鉄床で打堅め、二つに切る(たたき・胴切)。
2)再焼して二個を二つ宛に切り離し、四個とする(二番切)。
3)三焼してこの四個を長さ一尺八寸〜二尺一寸、幅二寸二分、厚さ四分の長角状の鉄をつくる(たたき回し)。
4)四焼し、長さの半分を、平の真中から縦に厚みの三分の一、溝状に割れ目をつける(はしくい)。
5)五焼して、残り半分に溝をつける(みてのはな)。
6)加熱あるとき、小炭粉に埋め、鉄色をよくする(むす)。
7)取出して水を注ぎ冷やす(ひやす)。
8)磨縄に鉄皮粉をつけて磨く(みがく)。
9) 厚さの四分の一残る鉄片を鎚で割り八本とする(わる)。
以上の工程を一日六回(六吹)行うのが通例。
大鍛冶屋普請(建設)場所
●水掛り自由なところ、床に水湿ないところ、深い谷傍か長流水のあたりで残槽捨場のあるところを選ぶ。
左下場
●長さ2.5尺内外、幅1.3尺、深さ0.7〜0.8尺の火窪の長側の一端より、粘土管で造った羽口で送風し、燃料は小炭を使い、火窪に銑を凡そ80貫、アーチ形に積み熱して、酸化焔で脱炭作業をする。下げ(左下)鉄は床底に沈積し、粗鬆なる粘塊となる。これを引出して手鎚で砕き、小塊として本場に移す。銑鉄の全炭素量3.5%中、三分の二を脱炭し、残りは約1.5%内外となる。これは鋼の炭素量と同じ。左下場での鉄の損失は5%内外。
本場
●大鍛冶錬鉄場。火窪の爐床の下部に溝?をつくり地下水を出す。その上に木炭粉を詰め、横の一方より粘土で造った羽口を据えて送風器をつなぐ。以前は木製鞴、明治24年頃より水車運転吹子。羽口
●大鍛冶左下場・本場で、吹差鞴から出る風を火床に送る二尺ほどの粘土管。
火窪(ほくぼ)・火久保
●地鉄を錬金のため熱し脱炭する火床。
おろし吹
●左下鉄をつくる火久保(火窪)に吹子で風を送ること。
吹き
●大鍛冶錬金作業の単位。一工程約一時間を一吹と称し、1日8〜10吹。
小鍛冶
●小割鉄の加工業者。■明治後期でみると、鍬鎌などの農業用具、包丁などの家庭用品、さらにかんざし、指輪、煙管などの注文生産と修理をする。代金は現金の他に古鉄・小炭・藁・卵・糠なども受け取った。小割鉄は江戸期より郡内の中小鉄山師より買い入れている。
大工
●大鍛冶本場の長。■左下鉄に鉧を少し加えて熱して炭素量を減らした錬鉄塊を、金床の上で四人の手子に打たせて鉄滓を搾り出し、約横5寸、縦一尺、厚さ2寸の形にし、縦に切断して二個にする。これを左下の手で元の火窪で熱し更に各二個に切り四片とする。これをまた熱して鎚で延すこと四回にして小割・丸延とする。この工程を一工程(ひと吹)として約一時間を要する。■大工は日に二人扶持、月に塩・味噌一升宛与える。
吹差・吹指
●本場に大鞴を据付け、火窪に地鉄八貫目を積み、小炭を盛り鞴で鉄を焼く。その鞴を操作する者二人を吹差という。■鍛冶屋の吹子は、大工座に後鞴と前鞴の二挺、左下場に一挺。後鞴は定まった職人。前鞴は定まった職人と、手の空いている手子とで吹く。朝方鍛冶職人を起して回るのは前鞴職人。
大鍛冶手子頭
●翌日の働き手の手配。短日の日は火口替のため手火(明かり)用意。後ぶきが欠けるときは休番の手子を手配。かけおち人監視。手子休番の日でも朝吹と二吹目に胴切りまでは仕事をさせる。手子へは年間12日以上の休日は与えぬなど。
大鍛冶役者(務め人)
●大工一人。前ふき指一人、この役を近年「左下」と言い習わす。後ふき指一人、吹子の操作のみする。手子四人(右振鎚二人、左二人)。七人の他に大工・前吹の欠間を勤める者一人、手子二人で計10人。これらの職人は山配の指図を受ける。
左下(さげ)
●銑を火久保(火窪)で熱し、炭などの雑挟物を除き、同時に含炭量を減らして本場に回す地鉄をつくる職人。作業場を左下場と言い、出来た鉄を下げ鉄と言った。
後ぶき(後吹)
●大鍛冶に二挺設置されている吹差吹子の後方のを操作する職人。前ふき指
手子
●大鍛冶で大きな鎚で焼鉄を連打する者4人。右手子・左手子がいた。■鎚の重さは1貫400匁位(天保年間は1貫800匁)。就労日は通常月15日。■常に高い手間賃を求めて退身者が多かった。■替り番のときは前鞴が勤める。
地物師
●鉄床や、鎚地生産鍛冶師は常置ではなく注文数がまとまった時、開設し、地物師を雇い入れる。