たたら製鉄では、鉧(ケラ)という塊ができ、その中に軟鉄、鋼、銑と呼ばれる鉄が混在している。これらは含まれる炭素の量によって、それぞれ性質が異なる。鉄に炭素をもたらすのは主に、燃料・還元材となる木炭である。
現代では、さまざまな特長を持った鉄が、いわゆる「合金」として生産されている。
炭素をほとんど含まず、柔軟性があり折れにくい。焼入れ(800°Cくらいに熱し、水などで急冷する熱処理法)をしても硬くならない。
使途/針金や釘、製品本体の地金に適している。
軟鉄より硬く、焼入れをすればさらに硬くなり刃物などになる。刃先に使われることから「刃金」とも書く。
鉄(純粋なFe)を主成分とする合金を指し、強度、靭性、磁性、耐熱性など鉄が持つ性能を人工的に高めたもの。軟鉄や鋳鉄は除外されるが、高合金のステンレス、耐熱鋼などは鋼の範疇に含まれる。
使途/包丁、鎌の刃など
※靭性=じんせい/しなやかさ
融点が低く、溶かして鋳型に流し込めば鋳物の原料となる。硬くてもろく、焼き入れをしたらバラバラになる。
今日では一部は鋳物として用いられるが、そのほとんどが鋼を製造するための原料とされている。
●「鉧押(ケラオシ)とは、鋼を作る操業法で、銑鉄(ずく)を炉外に流し取りながら、鋼を含む鉧を炉内に作る。鉧は20〜30%が鋼、銑が50%ほど、残りは不純物を含み炭素量が一定しない歩鉧(ブゲラ)である。
●銑押(ズクオシ)は銑鉄を作る操業法で、もっぱら銑を外に流しとる。銑が80〜90%、残りは炉内に鉧ができるが鋼はできない。
●たたらで生産される鉄の大半は銑で、その多くは歩鉧と共に大鍛冶場に回され、脱炭によって炭素量を下げて軟鉄にされ、さらに鍛打されて延板状の錬鉄にされる。錬鉄は地金で、江戸時代には割鉄、明治以降は包丁鉄と呼ばれた。
鳥取県西部、日野川の源流域「奥日野」では、原料となる良質の砂鉄が採れたことから、たたら製鉄で生産された鉄はとても品質に優れ、特に刃物に最適な鋼(刃金)として、かつては「伯州鋼」あるいは「印賀鋼」といった名称で全国に販売されていた。その中でも炭素含有量が1.0〜1.5%の特に優れた鉄は、今日では「玉鋼」と呼ばれている。破面が特に均質なものは「玉鋼特級」、少しグレードが低いものは「玉鋼1級」とされ、約2cm以下の小粒なものは「目白」と呼ばれる。
※「玉鋼」という呼称は、明治中期に海軍兵器局内で使用され始めたと言われている。
一般的には“良くないもの”として扱われがちな微量の非金属が混じっているが、地質がとても純粋で、刃物に最も適する化学組成をもち、折り返し鍛錬することによって、右のような良い特長をもたらす。
1/鍛接しやすい
2/熱処理により硬く、曲がらず、粘り強くできる
3/研磨しやすいので、良い刃付けができる
4/錆びにくい
5/焼き境が明瞭に出るので、日本刀で美しい刃文が付く