日南町 多里エリア

日南町多里(たり)は日野川の源流にあって、出雲・備後・備中三国との交通の要衝に位置し、日野川沿いに日野往来が通って江戸時代には宿駅として指定され、鳥取藩領として明治を迎えました。

大昔は海底にあり、隆起したという特徴的な地層、明治〜昭和の間に隆盛を誇った「クローム鉱山」の歴史、そして今なお多数の生息が認められるオオサンショウウオ・・・と、さまざまな興味が尽きない多里エリアです。


■たたら発祥の地「八岐大蛇神話」の舞台、船通山

奥日野五山のひとつ、船通山は多里のすぐ北側、島根県奥出雲町との境にあり、有名な「八岐大蛇(ヤマタノオロチ)神話」の舞台として知られる霊峰です。記紀によると、高天原を追放されてこの地に降臨した須佐之男命(スサノオノミコト)が八岐大蛇を退治し、大蛇の尾から出てきた「天叢雲剣(あめのむらくものつるぎ・草薙剣)」を天照大神に献上したと伝えられています。

八つの頭と八つの尾、そして真赤な目をもつという八岐大蛇は、鉄錆で赤く濁り、時として氾濫を繰り返す河川(日野川と斐伊川、いずれも火の川)や、山々で燃えさかる野だたらの炎を表し、「天叢雲剣」の出顕は「製鉄の起源」を表しているとも言われ、奥日野と奥出雲にまたがるこの地が「たたら発祥の地」とされる由縁となっています。

「たたらの聖地」奥日野と奥出雲。船通山を源として流れ出た「火の川」。二つの川が鉄穴流しの砂を運んで造った砂州、稲佐の浜と弓ヶ浜。その見事なシンメトリー。そして最下流には八百万の神が住まう地「出雲」と、数多の妖怪が住まう地「境港」。この船通山を始まりとして、山陰の風土や歴史文化が築かれたと言っても良いほどです。

船通山の山頂に立てば展望は360度の大パノラマ。「天叢雲剣出顕之地」の碑が建ち、4月下旬ともなれば可憐なカタクリの花々に彩られ、毎年7月28日には奉納神賑行事「宣揚祭」が行われ、勇壮な剣舞が演じられます。



■ 近代化産業遺産「若松クローム鉱山」

言うまでもなくこの地域も昔から「たたら」の産地として在り、周辺に「たたら遺跡」も多いですが、ここではむしろクローム鉱山が有名です。明治となってクローム鉱石が発見され、その総産出量は大正末期から昭和20年まで、なんと全国シェアの 47.5 %を占めており、操業は平成 7 年まで続きました。

当時は若松鉱山だけでも最盛期 100 人以上の従業員が働き、多里の町並みには旅館や飲食店、劇場などが並び、省営自動車が生山へと通い、貨物駅もあってとても賑わっていたと言います。若松鉱山は平成 20 年、経済産業省の「近代化産業遺産群続33選」にも認定され、多里地域振興センター(旧多里小学校)に当時の写真や道具類などの資料が展示されています。



■「目玉石」こと、多里層のノジュール列

また多里は化石や地質を研究する素材が豊富なことで知られ、全国から多くの学者たちがこの地を訪れています。多里層には化石も多く、中期中新世初頭(1,600~1,500万年前)、日本列島が広く海におおわれていた時期に浅海域(−5~−20m)で堆積した地層で、その後地殻変動によって約500m隆起したことを示し、中国山地の形成史を解明するための貴重なデータを内包する地層です。

中でも特徴的なのは、地元では「目玉石」と呼び親しんでいる多里層の「ノジュール」列。「目玉石(団塊)」は直径70cm以上に及ぶ巨大なもので、同じ砂岩層に列となって数多くまとまって存在し、風化によってメダマのような“同心皮殻構造”が見られることなど、他に例を見ない特異な地質現象で、まさに“地球の不思議”そのもの。

ノジュールは砂岩や泥岩の中に砂や泥が、周囲の母岩より硬い球状の団塊となって含まれているものをいい、化石や砂粒を核として岩石中の珪酸や岩酸塩などが濃集・沈殿しながら個結し、成長したものと考えられていますがまだ謎も多く、その成因を解明する上でも学術的価値が高く、平成29年10月、鳥取県指定文化財(天然記念物)となりました。



■国指定特別天然記念物オオサンショウウオ

太古を知る上で貴重な地層の他に、多里にはもうひとつ大切な国の特別天然記念物が。英語では「Japanese Giant Salamander」、地元の方言では「ハンザケ」と呼ばれる日本列島南西部の固有種「オオサンショウウオ」です。世界最大の両生類で、スイスで発見された3千万年前の化石と今の姿がほとんど変わっていないという「生きた化石」です。 奥日野一帯でその姿を見ることはできますが、特にここ、多里エリアには生息数も多く、地元でハンザケの研究や保護活動・生息環境の保全への取り組みも活発に行われています。

次第に解き明かされてきてはいるものの、まだ謎の多いその生態。躰は茶褐色の地に黒色の斑紋があり、大きく扁平な頭に直径2mmほどの小さなまぶたのない目。 手足は短く、前足の指は4本、後ろ足は5本で爪はなく、全長の3分の1ほどの縦に平たい尾を持ち、ずんぐりしていてどことなく愛嬌があって、いまや日南町の人気キャラクターにもなっています。

若松鉱山・オオサンショウウオの資料展示(お問い合わせ先)

■多里まちづくり推進協議会(多里地域振興センター内(旧多里小学校))鳥取県日野郡日南町多里826番地

  Tel/0859-84-0151

  休日/土、日曜日、祝日   開館時間/8時15分~17時



Topics■オオサンショウウオの、こんな書籍や歌もある!

■動物写真家福田さんと、ゆうきさんの写真絵本!

普段はのんびりと暮らしているオオサンショウウオが梅雨の頃、繁殖期になると流れの速い川や滝を渡って移動し、横穴の産卵巣を作り、さらに子孫を残すためのオス同士の必死の攻防を勝ち抜き、産卵の後はオスが春まで、卵を守り育てると言います。

そうした感動的なオスたちの奮闘を、動物写真家の福田幸広さんがここ多里で6年かけて撮影された写真絵本『オオサンショウウオ』(そうえん社/2014年発刊)。福田さんが昼夜を問わずオオサンショウウオの「福田くん」に向き合って撮影された、彼らの生態を知る上でも大変貴重な写真がたくさん掲載され、また子供たちにもわかりやすい言葉で「ゆうきえつこさん」による解説がされていて、2019年に小学館児童出版文化賞を受賞。子供向けとあなどるなかれ!まさに一見に値します!

●きまぐれ福田君新聞(福田さんのブログ)←リンク

●ナショナルジオグラフィック6月号(本の紹介)←リンク


■ハンザケの歌『明日へ向かう人』

ところで地元で言う「ハンザケ」は「ハンザキ」がなまった言葉で、その由来は「躰を半分に裂いても生きていそうな生き物だから」あるいは「躰が半分に裂けているような大きな口の生き物だから」などとも言われます。その「ハンザキ」を苗字とする、“ショッピングモールの歌姫”として人気のシンガーソングライター「半崎美子さん」の、ハンザキ(オオサンショウウオ)の成長をモチーフにしたオリジナル曲、『明日へ向かう人』という歌があります。

子供のオオサンショウウオ(大山しょう太)と、まだ幼虫のほたる(小川ほたる)が、川の中で、様々な危機に直面しながらも、それを乗り越えていく旅の物語り・・・。壮大で素敵なアニメーションのMVフルバージョンをYouTubeでいつでも観ることもできますので、ぜひ一度ご覧になって、多里のハンザケたちに思いを馳せてください!!

●半崎美子「明日に向かう人」(MVフルバージョン)←リンク



まち歩きの拠点、ホームランド多里

ホームランド多里  Tel/0859-84-0246

689-5224 鳥取県日野郡日南町多里783-10

【営業時間】10時~18時(1月から3月は17時まで)

○定休日 水曜日【駐車場】あり

国道183号線で広島方面から鳥取県に入って最初の飲食店。車を降りると、「どーん、どーん」と水車で動く昔ながらの杵の音が聞こえてきます。多里地域振興組合が運営するホームランド多里。レストランのメニューは、日南産のそば粉で作る手打ちそばを中心に40種類以上。水車搗きのもち米粉を使っただんご汁など、他では味わえない郷土料理もあり、県外から通う常連客もいるそう。テーブル席と座敷があり、夫婦や友人同士、家族連れでも入りやすい気さくなお店です。お店で出されるお米も餅のもち米も、もちろん日南町産。かき餅やジャム、一味唐辛子なども地域のお母さんたちが工夫を凝らして手作りされたもので、季節の野菜と一緒に農産物売場で販売されています。

●おススメは味噌汁だんごと割子そば定食

味噌汁だんごは、合わせ味噌仕立てのやさしい味わいの汁に、水車で挽いたもち米の粉を使っただんごが入った汁。もちもちしてふわっと軽い食感のだんごのお味は、きっとヤミツキになりますよ。

●割子そば

割子そばは、玉子、長いも、大根おろしの3つの味が楽しめる人気のメニュー。季節の炊き込みご飯と煮物、漬物がついたお得な定食も人気です。店内にある愛嬌のあるイラストも面白い。

 



■多里の歳時記


●春は千本の桜

多里・新屋地区に「桜公園」と呼ばれる約1haの広さの公園があり、春ともなればソメイヨシノを中心とする桜、約1,000本が見事に咲き誇ります。これらの桜は多里遺族会が平成7年に植栽し管理してきたものを、平成25年からは多里まちづくり推進協議会が管理を引き継いで行ってきたもので、2019年にはその活動の功績が認められ、超党派の国会議員等で構成する「日本さくらの会」から同協議会が「さくら功労者」として表彰されました。米子などより少し遅れてやってくる多里の桜の季節に、ぜひ出かけてみてください。

 

●夏は火祭り「多里是好日」

毎年7月の終わり頃に、旧多里宿通り・愛宕さん・宮島さんにローソクが灯され、またブラックライトもしくはキャンドルアートなどで明かりの装飾が施される「火祭り」が開催されます。多里のお店や有志による生ビール・そば・てんぷら・かき氷・冷やしぜんざいなどのバザーも出店します。(年によって趣向が異なります)

 

●秋は「多里かしら打ち」

「かしら」とは大きな太鼓のことをいい、毎年11月の第2週日曜日にその年の五穀豊穣を感謝して行われる多里神社の「秋奉納祭り」のなかで、氏神様にその喜びを奉納するために氏子たちが太鼓をうち鳴らして地域内を練り歩きます。日南町福栄に伝わる「かしら打ち」とともに、鳥取県指定無形民俗文化財ともなっています。